双曲線に沿って近づこうとしたとき、どこから逆に離れていってしまうのか
知らない方はいないでしょうが、Endorfin.という神アーティストがいますよね。
ボーカルの透き通る声も、爽やかでキャッチーな作編曲も魅力的なのですが、個人的に特筆すべき点は歌詞だと思っています。 直裁的で良い意味で巧みでない歌詞もあれば、抒情的で芸術性さえ覚えるような歌詞もあります。それから、圧倒的「かわいい」でぶん殴ってくることもあります。
さて、そんなEndorfin.なのですが彼女らの楽曲「ユリシス」にてこんな歌詞が登場します。
触れるほど赤く滲んで すれ違う双曲線
(中略)
大切に想うほど 逸れてゆく 番いの蝶
近づこうとすればするほど、逆に遠ざかってしまう心の距離*1を、双曲線に擬えて詩的に表現した美しい歌詞ですね。
蝶は蝶で、胡蝶の夢だったりバタフライエフェクトだったりを彷彿とさせる表現がこの歌詞の前後や、同アルバムの他の曲で登場し、一曲を通して美しいので是非一度聴いてみてください。
さて、双曲線についてピンとこない小学生の読者もいるかもしれないので、軽く解説しておきます。
これは普通の直線のグラフです。
最初、右上と左下に人がいたと想像してください。青い線上を通って会いに行こうと思えば、簡単に会えることが分かるかと思います。
さて、これが双曲線になります。さっき同様、最初に2人が左端と右端にいたと想像してください。青い線を辿っていくと最初は近づいていきますが、途中からは逆に離れていってしまうことがわかるかと思います。
これが近づこうとすればするほど、逆に遠ざかってしまうという双曲線の性質です。
じゃあ途中で止まればよくない?
さて、ここからが本題です。双曲線はある程度より近づこうとすると逆に離れてしまいますが、それは無理して近づこうとしているからです。
この辺で止まっておけば、頑張れば川ごしに会話くらいはできそうです(間に川が流れていたとして)。
しかし、だいたいこの辺などと曖昧な表現で2人の距離を定めてもよいものなのでしょうか。
もし我々が当事者だったらどうでしょう。1mmの妥協もなく1番近くにいられる場所を探したくないですか?
すなわち僕たちは「どこで止まれば一番近い位置にいられるのか」を知っておく必要があります。
ということで計算していきましょう。
前提条件
双曲線のグラフは通常(の点を考慮しなければ)、と表されます(は任意の実定数)。今回もこの表式を用いて議論を進めていきます。
2人同時に近づこうとする場合
2人が同じくらい離れた場所から同時に近づく場合、すなわち片方がにいるときにもう片方がにいるような状況をまず考えます。
この場合、2人の位置はといった表式で書くととになります。
このときの2人の距離なのですが三平方の定理を使えばわかります(みんなにはまだ早いかな?)。
二人の距離をとすると、
となります。さて、ここから大人っぽく微分してもいいのですが、ちょっとオシャレに平方完成してみましょう。
こういうタイプの平方完成は初めて見たかもしれませんが、2乗を展開したらプラスマイナスの部分は消えるようになってるので、どっちでも同じです。
の部分は位置に関係ないので放っておきましょう。が一番小さくなるとき、要するにとなるときの位置にいる時に2人の距離が一番近くなります。
式を整理すれば
となりますが、のときは明らかに当てはまるがないので、もっと言うととしてしまって良いでしょう。つまり
となります。つまり2人がそれぞれとにいるときに距離が最も近くなります。
例えば先ほど乗せたグラフはだったので、にいるときに距離が最も近くなります。
ちょっとズレてますね。
片方が近づこうとする場合
先ほどは両思いでしたが、現実の愛情は一方通行なことも多いでしょう。原曲も片想いとまではいかないまでも、片方は一緒にいることを諦めているような、そんな曲でした。
というわけで、もう一度動く方はとしておきましょう。じっと待っている方はにしておきます。
同じ曲線上にいると会えてしまうので、ならです(今回はこの条件で解きますが逆にしても同じように解けます)。
先ほどと同じように距離をとすると
となりますが、実はこれは簡単には解けません。微分してみても最終的には
という4次方程式を解くことになります。これは4次方程式の解の公式を知っているか、奇跡的に降ってくるかしなければ解けません。ズル(数値計算)して答えを絞るのもアリかもしれません。
僕は奇跡的に降ってきたのですが、
が答えになります。確かめてないですが、恐らくプラスマイナスどちらも重解になるので解は多分これだけです。
今回はを考えているので結局になります。
最初に相手がめちゃくちゃ離れている場合はできるだけ近づいた方が得なんですね(がめちゃくちゃ大きい場合はは0に近くなる)。
逆に相手が近くにいればいるほど、自分が近づこうとすると逆に遠ざかってしまう。ユリシスでもそんなもどかしさを伝えたかったのかなあ(多分違う)。
*1:アルバムを通して聴くとそれ以外の解釈が自然なのですが、本筋から双曲線のように逸れてしまうので省略しています。